
束縛
「父ちゃん、誰かに殺されたんだと思う」~まさか恋愛対象が○○!?~
記憶と妄想が交錯する恋愛ミステリー
結婚十年目の夫婦関係は冷え切っていた。 それでも2人が関係を維持する理由とは。 弟からの電話であやめは過去を遡っていく。 最後の一言で解放される…!
「記事じゃないよ、私の最大級のコメントです!」
初めに、私はこれ程までに「え?ちょっと待ってよ!」と繰り返し声にあげながら読んだ作品はない。 それ程にこの作品には、衝撃と言うか、どんでん返し的な要素が多種多様に散りばめられている。 何故なら、通常なら物語の折り返し地点からボツボツと始まる伏線の回収が、 この作品ではほぼ初っ端から既に行われているからだ。ストーリーは主人公である33歳の女性、アヤメの現在からスタートを切る。
父親の葬式に夫である豊と共に向かうために乗った電車の中で、彼女は自身のこれまでの人生に思いを馳せる。
この時間軸を逆行しながら綴られる彼女の記憶の断片たちを繋ぎ合わせることにより、 読者は、現在の彼女が何故に自分の夫との関係を良好なものに出来ないのか、 同様に、何者かに殺されたのかも知れない父親の死への疑問とを消化する事が出来る。
アヤメには幼い頃に実父からDVを受けるなど、自分の育った家庭環境にあまり良い想い出がない。 そのため、人を愛する事自体に怯え続けている。
そんな彼女の時間の氷を溶かしてくれたのは、他のだれでもない、夫の豊だ。 私は彼のその作業から、静寂にして深い愛情の存在を認める。 そしてこの物語の締めとなる彼の台詞を目にした時の衝撃は言い表しようがない。全身に鳥肌が立った。
「ちょっと待ってよ!!」
我慢ができずに、初めからもう一度通しで読み直す事となる。 そうする事により、長期に渡る1度目の読書過程で薄れていった台詞や伏線の回収部分がクッキリと輪郭を強める。 ああ、そう言う事だったんだ。。。
断言しましょう!
この作品は2度読みによって更にその魅力に取り憑かれる作品である。
なので、是非、2度読みをお勧めする。
最後に、この物語の最も面白く感慨深いと言える点は、アヤメと夫の豊のお互いへの愛情、言い換えると「束縛」、 そしてあやめの母親の夫(どうしようもないDV夫)への屈折しているが故の凄まじい愛情「束縛」、 この母娘の「束縛」の姿が対称的に存在しているところである。
私が敢えてこのレビューを書いたのは、それにより、この置き場のない余韻を収めるためだ。
そうしない事には、自分を空っぽにして次なる作品へと進む事が出来ないと考えたから。
それ程に、この作品は私にとって偉大だった。